金属のいろは(1)ー金属材料の概要編ー

 金属材料は古代中国の青銅器のように古くから使われている材料ですが、現在においても輸送機器、鉄橋、建築物、電子機器、食品容器など様々な分野で使用されており、生活に欠くことのできない材料です。今年度の技術解説では「金属のいろは」と題し、3回にわたり金属材料について解説します。今回は、金属材料の概要と代表的な金属である鉄について解説します。第2回では、金属材料の強度について、第3回では金属材料の腐食について解説する予定です。
図1 金属結晶の模式図

■金属材料とは

 金属材料には、金属光沢があること、電気伝導や熱伝導の良導体であること、引張や圧縮により変形が可能であることなどの特徴があります。
 図1に金属結晶の模式図を示します。金属材料は金属元素が規則正しく配列してできた結晶材料です。一般的な金属材料はさまざまな方向を向いた結晶が集合した多結晶体です。ひとつひとつの結晶を結晶粒、結晶と結晶の境目を結晶粒界といいます。結晶の種類や、大きさ(結晶粒径)、分布などを金属組織といいます。金属の性質は金属組織の影響を大きく受けます。

 今回は、代表的な金属である、鉄を用いて金属組織と特性について解説します。

図2 鉄の分類の模式図

鉄の種類について

 鉄は最も代表的な金属材料です。鉄は大別すると炭素が0.2%未満の軟鋼、0.2%から2%含んだ鋼と2%以上含んだ鋳鉄、クロムを10.5%以上含んだステンレス鋼の4種類に分けられます。また、JISの規定項目で分類すると、強度のみ規定されているもの、成分のみ規定されているもの、両方が規定されているものの3種類に分けられます。強度のみ規定されているものは、一般構造用圧延鋼や鋳鉄など比較的安価な鋼材です。機械構造用鋼などは、熱処理や塑性加工により強度が大きく変化するため、成分のみが規定されています。強度と成分が規定されているものは、プレス加工性や溶接性などの加工性や、耐食性などの機能が重要な鋼材であり、工具鋼やステンレス鋼などがあります。このように鋼材により規定されている項目が異なりますので、鉄の品質管理を行う場合は、強度試験や成分分析を適切に選択する必要があります。

図4 ステンレス鋼の不働態の模式図

ステンレス鋼について

 ステンレス鋼はクロムを10.5%以上添加することで表面にクロムの不働態皮膜を形成させることで耐食性を著しく向上させたものです。 図4にステンレス鋼の不働態皮膜の模式図を示します。鉄の錆はμmオーダーですが、ち密ではないため、腐食の進行を止めることができません。一方ステンレスの不働態皮膜は数nmと非常に薄いですが、ち密な膜であり腐食進行を著しく抑制します。また、この不働態皮膜は傷がついても直ちに再生されます。しかしながら塩化物イオンにより不働態皮膜は破壊されます。ステンレス鋼は錆びないわけではなく、錆びにくい鋼であるため適切な使用・管理が必要です。ステンレス鋼の腐食については第3回にて解説する予定です。

参考文献 

講座・現代の金属学 鉄鋼材料:日本金属学会

問い合わせ

金属材料係(彦根庁舎)
TEL 0749-22-2325

図3 鉄-炭素系状態図

鉄の金属組織について

 鉄は、炭素濃度により金属組織が変わります。図3に鉄の状態図を示します。状態図は化学成分と温度のグラフであり、成分と温度からどの結晶が安定であるかを調べることができる図です。鉄の中に炭素が0.02%以下の場合は鉄の結晶中に炭素が溶け込んでおり(固溶しており)、フェライトと呼ばれる結晶になります。フェライトは、比較的柔らかい結晶です。炭素が0.02%を超えると鉄と炭素の化合物であるセメンタイト(Fe3C)と呼ばれる非常に硬い結晶が部分的に析出します。このセメンタイトはフェライトと層状に析出し、パーライトと呼ばれる組織になります。炭素濃度が0.77%まではフェライトとパーライトが共存する金属組織になります。このフェライトとパーライトの比率が鉄鋼の引張強さと粘り強さ(靭性)に関連しており、パーライトが増えると強度が上がりますが、靭性は低下する傾向を示します。0.77%ではパーライトのみ、0.77%を超えるとセメンタイトとパーライトの組織となります。プレス加工に用いる圧延鋼は炭素濃度が0.15%以下、機械構造部品など靭性と強度が必要な鋼は炭素濃度が0.77%以下、工具など硬さが必要な鋼は炭素濃度が0.77%以上の場合が多いです。

鉄鋼の熱処理について

 鉄鋼では焼入れ、焼戻しという熱処理が重要です。鉄鋼の焼入れとは800〜900℃の高温に加熱することで、鉄の結晶をフェライトやパーライトから炭素が多く溶け込むオーステナイトに変化させ、炭素を鉄の結晶中に固溶し、その後水や油に浸漬し一気に冷却することで、フェライトやセメンタイトとは違うマルテンサイトという非常に硬い結晶に変える熱処理のことを言います。冷却速度が遅いと、フェライトやパーライトができてしまうため硬くなりません。焼入れは炭素濃度が約0.6%までは炭素濃度が多いほど硬くなりますが、マルテンサイトに変化する温度も低くなるため焼きは入りにくくなります。また、寸法が大きくなると中心まで焼きが入らなくなります。そのため、焼入れ性を向上させるためニッケルやクロム、モリブデンなどを添加します。このような鉄鋼が機械構造用合金鋼や工具鋼です。マルテンサイトは脆いという欠点があり、焼きが入ったままでは使用できません。この欠点を改善するのが焼戻しです。焼戻しとは、マルテンサイトから微細なフェライトやセメンタイトが析出した組織に戻すことで靭性を回復する熱処理です。焼入れには低温と高温の2種類があり、低温焼戻しは刃物など靭性より硬度が必要な場合、高温焼戻しは機械部品など靭性が必要な場合に行われます。

鋳鉄について

 鋳鉄は鉄鋼より炭素を多く含んでいますが、けい素も多いため、炭素は黒鉛として晶出します。鋳鉄は鋼に比べ融点が低くなり鋳造がしやすく、また晶出した黒鉛が鋳造欠陥の低減や振動などの吸収などの効果を有しています。代表的な鋳鉄には黒鉛の形状が異なる片状黒鉛鋳鉄(ねずみ鋳鉄)と球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)があります。片状黒鉛鋳鉄は黒鉛に沿って割れが発生するため脆いという欠点があります。一方、球状黒鉛鋳鉄はマグネシウムなどを添加することで黒鉛の形状を球状に晶出します。そのため、片状黒鉛鋳鉄に比べ強靭であるという特徴があります。鋳鉄の強度は肉厚が増加するに従って低下します。JISで規定されている強度は同一融液で引張試験用に鋳込んだ試験片の強度です。実物では、肉厚が80mmを超えるような分厚い製品では引張試験片の6割程度まで下がってしまいます。これは、肉厚が厚くなることで冷却速度が遅くなり、金属結晶や炭素が粗大化することにより弱い組織になるためです。そのため、肉厚の厚い鋳物を作る場合はJIS規格より強度が低くなることを考慮して設計することが必要です。