金属のいろは(2)ー金属材料の強度編ー

 金属材料は強いにも関わらず、変形することができる材料です。このような特徴は金属結晶と転位に由来します。また、金属は熱処理や変形を伴う加工により硬く強くなったり、軟らかくなったり、また脆くなったりと強度の特性が大きく変わります。今回の技術解説では金属材料のこのような強度の仕組みについて解説します。
図1 結晶と変形のイメージ
図2 転移による変形のイメージ

金属結晶とは

 結晶とは原子や分子が規則的に配列した構造のことを言い、金属結晶の他に、共有結合結晶(ダイヤモンド、セラミックスなど)やイオン結晶(塩化ナトリウムなど)などがあります。図1に結晶と変形のイメージ図を示します。共有結合結晶やイオン結晶では、Aの原子の隣はBというように原子の配列が決まっています。しかし、金属結晶ではAのとなりの原子はAでもBでも良いというように原子配列の規制が緩やかです。原子の移動を伴う変形において金属結合ではA-Bの結合がA-Aに変わっても結合を維持できますが、他の結晶ではA-AやB-Bの結合は維持することができず割れてしまいます。金属結晶が変形できるのに対し、他の結晶が硬くて脆いのはこのことが原因です。

 金属結晶が変形するとき一度に原子は移動するのでしょうか。図2の上段のようなホースを引っ張る時をイメージしてください。地面にあるホースをいっぺんに引くにはホースと地面の摩擦が大きいため大きな力が必要です。このような時、ホースの一部を浮かし、浮いた場所を移動させながら引っ張れば比較的弱い力でもホースを移動することができます。
 金属の内部でも同じようなことが起こっています。金属の内部では転位と呼ばれる線上の原子配列の欠陥が多数含まれており、これらが結晶中を移動することで変形が進みます。結晶に全く欠陥が無い完全結晶の強度を理論的に計算すると、転位が含まれている通常の結晶の10〜100倍の強度を有していると言われています。しかし、現在の技術では完全結晶を作ることはできません。そのため、材料の強度を上げるためにはこの転位の移動を抑制する方法がとられています。

図3 鉄鋼の応力−ひずみ曲線の例

弾性変形と塑性変形

 変形を大きく分けると2つに分けることができます。一つは弾性変形です。この変形は隣り合う原子間の距離が広がることで発生する変形です。力を除くと原子は元の位置に戻り変形は残りません。もう一つは塑性変形です。この変形は前述の転位の移動による変形であり、力を除いても変形は残ります。
弾性変形と塑性変形の関係は引張試験を行うことで測定することができる応力-ひずみ曲線で見ることができます。図3に鋼の応力-ひずみ曲線の一例を示します。応力は単位面積当たりにかかっている力であり、単位はN/mm2またはPaを使います。400N/mm2は1mm2あたり約40㎏の力が加わっていることを意味します。ひずみは単位長さあたりの変形量を単位長さで除して算出する値で、単位は%を使います。20%のひずみはもとの長さが50mmのとき、10mm伸び全長が60mmになったことを意味します。断面積や単位長さは変形の進行とともに変わりますが、一般的には引張試験前の断面積および長さ(標点間距離)を使った公称応力と公称ひずみを用います。

 金属の変形は弾性変形から始まります。この弾性変形が起こっている領域では応力とひずみの関係は直線関係になります。さらに力が加わると転位の移動が始まり塑性変形が起こります。塑性変形が始まることを降伏といいます。鉄鋼材料の一部には応力‐ひずみ曲線に明確に降伏現象が現れることがあり、この応力を降伏応力や、降伏点と言います。しかしながら多くの金属は明確に降伏点を示しません。そのため0.2%の永久ひずみが生じる応力を耐力として評価をしています。塑性変形が起こると変形が進むために、より大きな力が必要となります。このことを加工硬化と言います。さらに変形が大きくなると応力は極大点を迎え、その後、応力は小さくなります。応力の極大値を引張強さと呼びます。引張強さを迎えるまでは変形は均等に起こります。しかし引張強さを超えると変形は局部的に進むようになります。局部変形が進んでいるところの断面積は周りに比べて小さくなるため、より低く力でも変形が進むようになります。

 強度の指標にはもう一つ硬さがあります。ビッカースやロックウェル、ブリネルといった硬さは、ダイヤモンドや鋼球でできた圧子と呼ばれるものに一定の負荷を与えることでできるくぼみの大きさから評価する手法であり、大きなくぼみができれば軟らかく、小さなくぼみであれば硬いということになります。引張試験が試験片全体の平均的な強度を評価するのに対し、硬さは局所的な強度を測っていることになります。同じ種類の金属であれば、硬さと引張強度は正の相関関係があります。

金属の強化方法

 金属の強化方法には、(1)加工硬化、(2)析出強化、(3)固溶強化、(4)結晶粒の微細化の4つがあります。いずれの方法も転位の移動を抑制することで強くしています。

 加工硬化は前述の塑性変形の進展に伴い、より大きな力が必要になるという現象です。塑性変形が進むと転位の数が増加します。転位の数が増えると転位はお互いの運動を阻害するため、動きにくくなり硬くなります。圧延鋼板や鍛造、プレス製品は加工硬化により強化されています。転位は焼きなましという熱処理を行うことで数は減ります。そのため、焼きなましを行うと軟らかくなります。

 析出強化とは、通常の結晶の中にナノレベルの微細で硬い結晶を作り(析出させ)、この微細な結晶が転位の動きを阻害することで強くする手法です。微細な結晶を析出させるためには時効と呼ばれる熱処理を行います。この強化法で代表的なのはアルミニウム合金の一種であるジュラルミンです。時効熱処理時間の経過に伴い、微細結晶が析出するためジュラルミンは硬くなりますが、時間が長くなりすぎると微細結晶が粗大化し逆に軟化します。

 固溶強化は、元の金属に他の金属などの元素を混ぜることで強くする手法です。大きさの違う元素が混じると金属結晶は、その混ざった金属の周辺ではひずみが発生します。そのため、転位の移動が阻害されるというものです。黄銅や青銅等はこの強化法で強くなっています。一般的には金属を混ざりものが入っていない純金属のまま使用するのはまれであり、合金として使用します。そのため、多くの金属材料では固溶強化の効果受けていると言えます。

 結晶粒の微細化は、結晶の大きさを小さくすることで強度を上げる手法です。金属材料は金属結晶が多数集まった多結晶材料であり、結晶と結晶の境目に結晶粒界と呼ばれる結晶の向きが変わる場所があります。結晶粒界には転位の移動を止める作用があり、結晶粒径を小さくし結晶粒界の割合を増やすと、転位の動きが抑制され強度が向上します。この強化方法はホールペッチの関係と呼ばれる経験式で表されており、結晶粒径の1/2乗に逆比例して強度が向上すると言われています。結晶粒の微細化には強加工を行いひずみを無数に入れた後に熱処理により微細な結晶を新た作り出す方法や鋼の場合は焼き入れ焼き戻しの熱処理が用いられています。

参考文献

演習:材料試験入門:砂田久吉

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