金属のいろは(3)ー金属材料の腐食編ー

 腐食は金属材料を使う上で避けることができない劣化現象です。一説によると日本国内の腐食やその対策にかかるコストは、GNPの3〜4%と巨額な費用になると言われています1)。金属の腐食発生のメカニズムを知り、的確な対策をとることができれば、製造コストの削減や製品の信頼性向上につなげることができます。今回の技術解説では金属材料がなぜ腐食するかについて解説します。

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図1 酸化と還元の模式図

 

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図2 乾食と湿食の違い

 

金属材料の腐食とは

 金属材料の原料は、鉄鉱石(酸化鉄)やボーキサイト(酸化アルミニウム)、銅鉱石(酸化銅、硫化銅)であり、多くの金属材料は酸化物や硫化物で存在しています。したがって、金属材料は酸化物や硫化物が安定であると言えます。鉱石から金属への製錬は、エネルギーを加えて酸素や硫黄を除去(還元)しています。還元された金属は、何も対策をしなければ環境と反応して元の酸化物や硫化物に変化(酸化)していきます(図1)。腐食とはこの酸化反応により材料が消耗していく変化です。一方、防食とは、酸化反応を遅らせるための手段であり、必要な耐用期間中に金属材料の機能を維持することが目的です。

 金属の腐食は水が関与せず化学反応により進行する乾食と、水が関与し電気化学反応で進行する湿食とに大別されます(図2)。この時に考慮しなければならない水とは淡水や海水、水滴など目で確認することができる水だけでなく、金属表面に形成される水膜も含まれます。通常の生活環境下で発生する腐食の多くは湿食により発生します。今回の解説では湿食について説明します。

 

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図3 鉄の腐食の模式図

 

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図4 湿度と腐食の相関模式図

 

湿食の発生メカニズム

 湿食は電気化学反応により進行します。電気化学反応とは反応物質間で電子をやりとりしながら進行する反応です。具体的に酸性水溶液中での鉄の反応を見てみましょう。

酸化反応(アノード反応)

Fe → Fe2+ + 2e ----(1)

還元反応(カソード反応) 

酸性 2H+ + 2e- → H2 ----(2)
中性 O2 + 2H2O + 4e- → 4OH- ----(3)

 Feは電子を2つ放出してFe2+となり水溶液中に溶けていきます。電子を放出する反応は酸化反応(アノード反応)といいます。酸性水溶液中ではH+が豊富に存在するためFeが放出した電子はH+が受け取ってH2になります。電子を受け取る反応を還元反応(カソード反応)といいます。アノード反応とカソード反応は必ず対で発生し、アノードで放出する電子の量はカソードで受け取る電子の量と必ず等しくなります。またアノードからカソードへ動く電子の流れが電流になります。電流が多いほど電気化学反応は早く進みます。
 酸性水溶液中ではH+が多く存在していますが、中性やアルカリ性ではH+はほとんど存在しないので(2)式の発生は少なくなります。そのため(1)式により放出された電子を受け取る物質が、H+からO2に変わります。O2は(3)式により水中で電子を受け取りOH-に還元されます。
 空気中では約20%の酸素があります。しかし、乾燥した空気中ではほとんど腐食は発生しません。これは乾燥した空気中では化学反応による腐食となるため、腐食が進行するためには熱などの大きなエネルギーが必要なためです。一方で湿度が高い空気中では著しく腐食が進行します。これは、金属表面に形成された水膜中で電気化学反応が発生するためです。水膜の厚さは空気や表面に状態によって異なりますが、湿度が60%を超えると急激に増加すると言われています(図4)。水膜中は大気中から金属表面への酸素の拡散が速いため、水中より速く腐食が進行します。

金属による腐食の違い

 鉄、銅、ステンレス鋼、アルミニウムでは腐食の速度が異なります。その原因はアノード反応のしやすさ、表面に形成された酸化被膜のち密さの違いです。
 鉄に比べ銅は腐食が発生するためのエネルギー(電位)が高いため腐食が起こりにくいのです。銅の腐食電位はHの還元電より高くO2の還元電位より低いため、H+が原因での腐食は起こらずO2による腐食が発生します。また腐食により形成された酸化被膜も鉄に比べてち密であり、その後の腐食の進行速度を遅らせます。そのため、鉄より耐食性が高くなります。ステンレス鋼やアルミニウムは不働態皮膜と呼ばれるnmオーダーの厚さのち密な酸化被膜を形成します。この皮膜は物理的に破壊されても短時間で再生されます。しかしCl-などの不働態皮膜を破壊する物質があると不働態を維持することができずに腐食が発生します。

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図5 腐食の一例

 

腐食の種類(均一腐食と局部腐食)

 腐食を大別すると均一腐食と局部腐食に分けることができます(図5)。均一腐食はアノードとカソードの場所が固定されておらず、全面に均一に腐食が進行します。腐食の速度は比較的緩やかであり、また腐食の発生や進行具合が目視しやすいという特徴があります。
 一方、局部腐食はアノードとカソードの場所が固定されて発生する腐食です。アノードの面積はカソードの面積に対して著しく小さいことが多いため、電流密度が高くなり、反応速度が速くなります。したがって局部腐食は均一腐食に比べて狭い範囲で速く進行し、発見しにくいという特徴があります。局部腐食は、材料や環境の不均一が原因で発生します。例えば、酸素濃度や電解質濃度、流速が異なる環境と接触している(通気差腐食、濃淡電池、すき間腐食、エロージョン・コロージョン)、異なる金属が接触する(異種金属接触腐食)、材料中の不均一(孔食、粒界腐食、脱成分腐食)などがあります。

 腐食の原因を解明するためには、材料や使用環境、使用方法を調べる必要があります。東北部工業技術センターには原因究明に用いることができる分析装置や観察装置がありますので、ぜひご利用ください。

参考文献 

1) 防錆技術学校教科書 基礎課程:(一社)日本防錆技術協会

問い合わせ

金属材料係(彦根庁舎)
TEL 0749-22-2325