バルブのいろは(2)-加工方法と材料-

 滋賀県は彦根市を中心に関連企業を含め約100社、従業員1,500名からなる全国で唯一のバルブ地場産地であり、水道用では全国シェアの50%以上を占めるほか、産業用、船舶用など様々なバルブが生産されており、当センターにおいてもバルブ実流試験設備を備えるなど、バルブ産業の振興に取り組んでいます。
 前号の技術解説では、バルブの構造と接続方法について紹介しました。本号では、加工方法と材料について説明します。なお、バルブは金属バルブと非金属(樹脂)バルブに分かれますが、ここでは金属、とりわけ広く用いられる鉄系および銅系のバルブについて説明します。
図1 バルブの構成要素
図2 主な鋳物の分類(鉄系および銅系)
図3 鉄ー炭素状態図

1.バルブ材料の選定基準

 図1に代表的なバルブである玉形弁の構造を示します。バルブは、圧力を保持する弁箱(body)や、弁蓋(bonnet)と流量を制御する弁体(disc)、弁棒(stem)、弁座(seat)などの腰部(trim)から構成され、製造にあたってはそれぞれ最適な材料を選定する必要があります。

 材料の選定で最も重要なのは「使用圧力と温度」と「使用流体に対する耐食性」で、これらを満足した上で、加工方法や経済性(コスト)を考慮して決定します。また用途により法令に従う必要がある他、標準的な用途については形状や材質が規格化されています。

2.加工方法と材料

■鋳造(ちゅうぞう)と鍛造(たんぞう)

 弁箱や弁体については、立体形状に加工する必要があることから、鋳造または鍛造により作成し、接合部分を機械加工します。鋳造と鍛造の特徴は表1のとおりで、高級な一部の製品は鍛造により作られますが、多くの製品はコスト面から鋳造により作られます。

表1 鋳造と鍛造の比較

 

鋳造(ちゅうぞう)

鍛造(たんぞう)

製造方法

液相の金属を型に流し込み成形する。

固相の金属に型で高い圧力を加え成形する。

特徴

  • 複雑形状が作製可能。
  • 一定以上の小物、薄肉ものは製造が難しい。
  • 巣や組織欠陥、成分のばらつきが発生しやすい。
  • 結晶粒度が微細で強度、じん性に優れる。
  • 組織欠陥が少なくばらつきが少ない。
  • メタルフローにより強度を高められる。

コスト

比較的安価

高価

■鋳造品の分類

 バルブ材料として最も広く用いられる鉄系および銅系の鋳物材料を図2に示します。

■鋳鉄と鋳鋼

 鉄系の材料は炭素の含有率により性質が大きく異なります。図3に示す鉄-炭素状態図は、炭素の含有率を横軸、温度を縦軸として鉄の状態(相)を表したもので、図中の点①の炭素含有率2.14%を境界にそれ以下を鋼、それ以上を鋳鉄と言います。

 鋳鉄では、高温の液相からの冷却過程で全てが固相となる線②で、炭素が金属であるオーステナイトに固溶しきれず、炭素化合物のセメンタイト(Fe3C)もしくは炭素鉱物の黒鉛(グラファイト)が分離し、析出します(※1)。また状態図からわかるように炭素含有率約4.2%に近づくに従い全てが液相となる線③の温度(溶融点)が低くなるため鋳鉄は鋼に比べて鋳造が容易です。

 一方、鋳鋼(鋼の鋳物)は線③の溶融点が高いため高温に過熱する必要があり、鋳鉄に比べて湯流れが悪くなりますが、炭素鋼に準ずる高い強度を持ちます。
 
 また、オーステナイト系ステンレスなどを除く鉄系の材料では低温脆性が発生するため、氷点下で使用する用途では注意する必要があります。
 
※1:鋳鉄では、性能を安定化させるため炭素の他にケイ素を添加します。炭素およびケイ素の含有量が多いほど、また冷却速度が遅いほど組織中に黒鉛が析出しやすくなります。黒鉛が析出した鋳鉄を広義のねずみ鋳鉄、セメンタイトのみの鋳鉄を白鋳鉄といいます。

図4 鋳鉄の組織写真

■片状黒鉛鋳鉄(ねずみ鋳鉄)、球状黒鉛鋳鉄

 片状黒鉛鋳鉄は最も一般的な鋳物材料で、黒鉛が片状(細長い形状)に析出したものです。柔らかく潤滑性の高い黒鉛が析出していることで耐摩耗性や振動吸収性が高い反面、もろく強度が低い材料と言えます。

 それに対し、球状黒鉛鋳鉄はダクタイル鋳鉄とも呼ばれ、マグネシウムなどを添加することで黒鉛を球状に析出させた鋳鉄で、片状黒鉛鋳鉄に比べ強度が格段に高い鋳物材料です。JISでは片状黒鉛鋳鉄をFC(ねずみ鋳鉄品)、球状黒鉛鋳鉄をFCD(球状黒鉛鋳鉄品)として規定しています。片状黒鉛鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄の組織写真を図4に示します。

■鋳鋼

 鋳鋼はSCから始まる記号で表され、バルブ材料としては、耐圧・耐熱性を考慮したSCPH(高温高圧用鋳鋼品)がよく用いられます。SCPHはJISにおいて8種類が規定されており、SCPH1,2は炭素鋼、それ以外はモリブデンなどを加えた合金鋼です。

 ステンレス鋳鋼は、SCSとして規定されており、圧延鋼であるSUS(ステンレス鋼)に準ずる耐熱性、耐食性を持ちます。またSUSと同様に、耐食性に優れるオーステナイト系や、耐食性はやや劣るが強度の高いマルテンサイト系などがあります。

■銅合金

 銅合金はJIS H 5120に規格化されており、一般的なものとして、銅に数%のすず、亜鉛などを加えた青銅(ブロンズ、砲金)と、亜鉛を20〜40%程度加えた黄銅(ブラス、真鍮)があります。

 青銅鋳物は耐食性、鋳造性に優れ、またJIS B 2011「青銅弁」などで規格化される最も一般的なバルブ材料の一つです。中でもCAC406(青銅鋳物6種)は、耐圧性、耐摩耗性、被削性、鋳造性に優れ非常に多く用いられます。

 黄銅鋳物は、適度な耐食性を持ち機械強度が高く青銅に比べて安価ですが、水と反応して脱亜鉛腐食が生じる場合があり注意が必要です。

■鉛フリー銅合金

 CAC406などの銅合金鋳物は被削性を高める目的で鉛を含みますが、2003年の水道法改正に伴い水質基準が強化されたため浄水用バルブからの鉛の溶出が問題となっています。このため近年、鉛を含まない鉛フリー銅合金への関心が高まっています。
 
 機械強度、耐食性、快削性を備えた鉛フリー銅合金には、当センターを含む彦根バルブ業界で開発を行った硫化物分散型のビワライト(CAC411)やビスマス青銅合金(CAC900系)などがあります。

■問い合わせ先

機械・金属材料担当(彦根庁舎)
TEL 0749-22-2325